じゃんけん必勝法

「心を攻めるを上とし、城を攻めるを下とする」
〜三国志より〜

(蜀の諸葛亮孔明に仕えた軍師・馬謖の言葉。戦えば必ず損害が出る城攻めよりも、敵の心理を攻めることが上策と説いた…)

前章では、「〜という傾向がある」という程度の、長い目で見た確率論における「勝率」アップ法を述べたが、その戦法では「必勝」と呼べる域にはまだ遠い。

さらに上に行く時は、相手の出す「手」を一点読みする。

もしくは相手の心理を操作して、こちらの望む「手」を出させる技術が必要となる。

 キャラクター演出作戦

前章で触れた「人物像ごとの出しやすい手の傾向」に対する「読み」は、『じゃんけん必勝法』を極める者ならずとも、意識して、あるいはほぼ無意識のうちに行っているものである。
ならば、それを逆利用せぬ手はない。

仮にあなたが、「立派な体格、太いマユゲ、純粋そうな瞳」をもった「体育会系」の外見だったとしよう。
だとしたらそのキャラを怪しまれない程度に誇張して、相手に伝えてみよう。

まず、『じゃんけん』の前に「気合」を示す。

「よーし、じゃんけんで勝負だー、いくぞーー!」

そして「拳」を軽く握り、もう一方の手でつつんでこねる。目はあくまで真剣に、口元はきりりと結ぶ。

どうだろう?「いかにもグーを出しそう」な気配ではないだろうか?
これが自身のキャラクターを利用した「キャラクター演出作戦」である。

次にもし、あなたが「メガネ、痩身」、ちょっとインテリジェンスな外見だったら、
チョキを出しそうな気配」の誇張を試みてみよう。

「ん・・じゃんけんね・・フフ・・負けないもんね・・」

などと、軽く笑い、両方の手を軽く合わせ、指と指を交互に組んで、軽く動かす。
指の間隔を拡げるような動き。相手のほうからは、チョキの前触れと見えるように。
そして、口元をペテン師の如く歪め、カラダ中からチョキのオーラを発生させるのだ。

もう相手は、「あなたがチョキを出す」と思い込んでいるに違いない。

もしもあなたが、「天然系のキャラ」だったら、
そのときはパーを出す演出の誇張を試みてみよう。

「じゃんけん♪じゃんけん♪まけないぞぉ~♪」

天使のように歌いながら、軽くステップを踏む。
手を顔の両サイドに持っていき、グーパーと交互に出しながら、満面の笑みで相手を迎える。
もう、この子が「パー以外を出すとは、とても想像できない」であろう。

自分がいずれのキャラクターにも当てはまらないと感じるのなら、「グー」の演出が自然に映る。
『じゃんけん』は勝負事なので、普段の自分を捨てて、「気合いの演出」をしても不自然ではないはずだ。

あとは自分の演出した手に勝つべく出した、相手の手の「逆」をつけば「勝利」はおのずと転がり込む。

演技の心得としては、「手」を出す寸前までは自分にも暗示をかけること。
たとえばグーであれば、寸前までは「グーでいくぜ」と信じ込んで演技する。
そして、「じゃ〜んけ〜ん…」と振りかぶったその刹那に、頭を咄嗟に切り替えて、「チョキ」を出すのだ。
(瞬時の切り替えが必要なので、事前に「本番はチョキ」と脳内確認するとよい)

「敵を騙すにはまず味方から」
この場合の味方とは、すなわち「自分」である。

また、ボディアクションによる「サブリミナル効果」も、演出には欠かせない。
グーの場合なら「口元をきりっと」
チョキの場合なら「指関節を開く動き」
パーの場合なら「手をグーパー

真剣な演技は、時に相手の「無意識」をも動かすことを心に刻んでおこう。

 策士と見せかける「カニカニ」作戦

先に述べたのは、いわば「自分を単純に見せかける」作戦だったが、この「カニカニ作戦」は、自分を腹黒い「策謀に満ちた人物」と認識させる作戦である。

実例を上げて説明しよう。

黒服にサングラスの怪しげな風貌の男が、口元に余裕の笑みを浮かべ、

「オレはカニのようにじゃんけんが強い男だぜ…」
「いいかい?オレはカニのように強いんだぜ…」

と呟きながら『じゃんけん』を挑んできたら、あなたはこの男がどの「手」を出すと読むか?
「カニのように」とは、この男が「チョキを出す」と宣言しているようなものである。
だがそれは男の態度から、とても本気の宣言とは思えない。
こちらを「手の読み合い」に持ち込んで、心理を見切った上で勝ちを得よう…そんな男の算段が、その不敵な笑みには隠されているようだ。

だが結局、相手の手を読み、そのまた裏を…という考えは、袋小路に陥る。

思考の袋小路に陥った人間は、様々な可能性を意識しすぎて、マイナス思考…つまり「この男の術中には落ちたくない」という心理に至るのである。

「オレはカニだ。カニのようにじゃんけんが強いんだぜ…」

…指でチョキチョキとカニカニ運動を繰り返しながら、男の呟きは続く。
マイナス思考に陥った人間は、この男の「宣言通りのチョキ」に対して、自分が「パー」を出して破れることに嫌悪感を覚える。
なぜなら、男が「チョキ」で勝ったアカツキには、

「ほら、オレがカニのようにじゃんけんが強いって言っただろ?」

と、得意げに笑う情景が、視覚的に浮かんでくるからである。
「じゃあグーか?いやチョキか?……えーい!」
こんな心理が、マイナス思考に陥った対戦相手の、ありがちなパターンだ。つまりカニカニ男からしてみればすでに相手のパー はない。つまりグーチョキを「手」として出すはず。
ならば、悪くてあいこのグーを男は選択する。相手の顔色に対する洞察と併用すれば、この瞬間、「必勝」とは呼べないまでも「負けはない」という確信を得ることができる。

もし相手がこちらの術策の踊らされず、動じず、眼光に勇気を秘めている場合は、あっさりとこちらの作戦は捨てて、適当な「手」を出して、ランダムに委ねればいいだけである。どちらにせよカニカニ男にとって「リスクはない」のである。

なお、「カニのように」というくだりは、「チョキ出します!」というストレートな宣言に変えてもいいのだが、この作戦のキモとなるのは「相手を挑発、誘導して、思考の袋小路に追い込む」ことにあるので、間接的な表現を用いて、なにかしら相手の思考を誘発するものが望ましい。

「V作戦発動…これより敵を殲滅する!」と叫ぶ。(Vはチョキを表す)
野球の投球ポーズを行い、フォークボールの握りで投げ、「勝負!」と叫ぶ。(フォークボールの握りはチョキである)

というふうに宣言し、こちらがチョキを出すイメージを打ち出す。すると相手はパー
を出して負ける光景を想像し、それが滑稽に感じてしまう。さらにパー という語感に秘められた「負のイメージ」が、相手のマイナス思考を増幅させる要因となる。
この「カニカニ作戦」ような、言葉や態度による心理の操作は、相手の人物像にも大きく依存する。このため、数限りないバリエーションが考えられるだろう。人間研究を重ねて、臨機応変な作戦を繰り出せるようにしておきたい。